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The Martin Buber-Carl Rogers dialogue : a new transcript with commentary

紹介文

 本書には、ユダヤ対話哲学の巨人マルティン・ブーバーと心理療法の巨人カール・ロジャーズが1957年に交わした、歴史に残る対話が収められています。対話を録音したテープをおこして、逐語にしたものです。本書以前にもいくつかバージョンがあったのですが、重要な個所が抜け落ちていたり、間違っていたりして、不完全なものでした。本書は信頼できる完全版と言ってもよいと思います。なお、日本語で読みたい方は、『ブーバー ロジャーズ 対話』(山田邦男監訳、春秋社、2007)(※)を御覧ください。  私は臨床家ですが、ロジャーズではなく、ブーバーに焦点を合わせて書くことにします。対話のなかで、二人の見解が真っ向から対立する部分があります。ブーバーの主張はこうでした。クライエントとセラピストという役割の違いを前提とした状況、つまり心理療法における治療関係は非対称的な関係であり、相互性及び対等性という意味では対話とは言えない。セラピストとクライエントの関係は我-汝関係であるとしても、心理療法はダイアローグとモノローグの中間的なものであろうから、そこに出会いによる癒しが生じるものか疑わしい。このようにして心理療法における相互性の限界を指摘するブーバーに対して、ロジャーズは相互性が生まれる瞬間があるのだと主張します。心理療法のなかで我と汝が出会い、クライエントとセラピストは相互的に変化するのだと訴え続けます。  この対話の直後、ブーバーは主著『我と汝』に「あとがき」を追記しました。そこには、ロジャーズに対する応答らしきことが書かれている部分があります。それは、心理療法における出会いを認めるものでありました。ブーバーの変化は、ロジャーズと対面する直前にすでに起こっていたと思います。というのは、この対話以前は聴衆の面前で対話すること、対話を録音することを頑なに拒絶していた彼が、いずれの条件も認めて対話に臨んだのですから。  残念なことですが、ロジャーズの著書も、ブーバーの著書も、いまの若者たちは読まないようです。心理臨床家を目指す若者たちのことです。心理療法の技法以前に、クライエントとセラピストのあいだには人格的な出会いが必要です。心理療法における出会いは、ロマンティシズム溢れる出会いではなく、パトス的な受苦の連帯のうちにある出会いです。出会いによる癒しを知りたい人にとって、本書は必読の書であり続けることでしょう。 ※、『ブーバー ロジャーズ 対話』(山田邦男監訳、春秋社、2007)【3F和書:199/B】

紹介者
田澤 安弘 先生
所属学部
社会福祉学部
書名 The Martin Buber-Carl Rogers dialogue : a new transcript with commentary
著者名
Rob Anderson and Kenneth N. Cissna
分野
Psychology
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所在
1F外国書
請求番号
199/An