図書館員のおすすめ本
口の立つやつが勝つってことでいいのか

紹介文
随分、挑発的なタイトルだなぁとドキドキしながらページをめくると、文章の語り口はやわらかで、どこまでも穏やか。
本書は、表題である「口の立つやつが~」の他、「理路整然と話せるほうがいいのか?」「後悔はしないほうがいいのか」など著者が日々感じたことを中心にまとめたエッセイ集。世の中の「当たり前」や「思い込み」に対して独自の切り口で問いかけ、はっとさせられます。
著者は、「文学紹介者」という肩書で国内外の数々の文学作品を紹介する頭木弘樹氏。 20歳のときに難病にかかり、13年間の闘病生活を送ります。闘病中にどう説明しても人にわかってもらえない、「言語化することの難しさ」を痛感した経験から、「言葉にしないとわからない」✕「うまく言葉にできない」という問題は、実は私たちの日常生活で起きていることで、現代の生きづらさにも関係しているのではないかと推察しています。
現代社会では理路整然と話すことが求められ、もてはやされる傾向にありますが、世の中には言語化できないことの方が実は多く、「うまく言葉にできないほうが、当然なのだ。本当なのだ」と言い切ります。そして、「理路整然と話さないのも魅力的」とも。
意外にも、著者は子どもの頃は「口の立つやつ」で、ケンカ相手にも勝ってばかりいたそうです。理系出身で元々理路整然と考えるのが得意なはずの著者が、これほど「言葉にできないこと」について考える訳とは...。
あとがきでは「エッセイにはどこか、書き手が生の声で語りかけてくれるようなところがある」と述べています。確かにラジオを聴いているような感覚で、著者の語りかけに「なるほど」と感心したり、クスっと笑ったり。
どこか、そっと寄り添ってくれるようなやさしさを持つ本書。ぜひ読んでみてください。
紹介者 |
だるま
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書名 | 口の立つやつが勝つってことでいいのか |
著者名 | |
分野 |
近代の評論.エッセイ
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蔵書検索 | |
所在 |
3F和書
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請求番号 |
914.6/K
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