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忘れられた巨人

紹介文
本作を読んで抱いた印象は、まるで「歴史の奥底」へと引き込まれるような感覚でした。『私を離さないで』から10年後に発表されたこの作品には、まるで「私から離れていかないで」という切実な願いが込められているように感じられます。
物語には草花の描写が多く登場し、終盤では船頭が向こう岸に咲く花について語ります。「いつも側に置いて」という花言葉を持つその花は、メキシコでは死の儀式にも用いられるものであり、読者の心を洗い流すような余韻を残します。
また、物語の合間に挿入されるアクセルのつぶやきは、時間と空間の感覚を揺さぶり、読む者の視点によって多様な解釈を可能にします。
語り継がれる曖昧な記憶を過去の静寂に留めておくことも、言葉にできない痛みを心にしまっておくことも、人の優しさの一つであり、今を生きる私たちの希望でもあるように感じました。他者を想い、許すという行為が、自分の中に備わっているかどうかを問いかけてくる作品です。
すべての争いがなくなることを願う、平和を望む気持ちが、読後にそっと心に灯ります。
紹介者 |
しまふくろう
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書名 | 忘れられた巨人 |
著者名 | |
分野 |
近代小説.物語
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蔵書検索 | |
所在 |
3F和書
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請求番号 |
933.7/I
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