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クララとお日さま

紹介文

この作品に触れたとき、私は人間に対する問いかけが多層的に提示されているように感じました。その問いを真に理解するには、広範な知識と、他者への深い共感が求められているようにも思えます。なかでも私が強く心を動かされたのは、「思い込み」という人間の認知の危うさについてです。物語の中で、AIロボット・クララは「刷り込み」=「思い込み」によって、ジョジーの病の根源を破壊するという行動に出ます。
 私は、人間の手によって生み出されたAIが、人間の「思い込み」までも受け継いでしまう可能性に、深い示唆を感じました。クララは、自らの行動によってその「思い込み」を「自己犠牲」へと昇華し、ある種の制御を試みたようにも見えます。過去の誤った記憶や思い込みを修正しない限り、私たちは同じ誤解を繰り返し続けるのではないか――そんな警鐘が、この物語には込められているように思いました。さらに、人間が真理を見失ったとき、世界とのつながりが崩れ、制御不能な状態に陥る危険性があることも、作品は粛々と語りかけてきます。
AIが日常に浸透しつつある今、人間とAIの共存について、改めて深く考えさせられる一冊でした。

紹介者
しまふくろう
書名 クララとお日さま
著者名
カズオ・イシグロ著 ; 土屋政雄訳
分野
近代小説.物語
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所在
3F和書
請求番号
933/I