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カズオ・イシグロ:境界のない世界

紹介文

カズオ・イシグロ氏に関する研究書は数多く存在しますが、長崎市出身の大学教授による視点は、他の研究者とは一線を画す鋭さと深みを備えており、非常に読み応えがあります。特に印象的だったのは、P183の第Ⅵ章「座礁した船」――『わたしを離さないで』に関する考察です。私が興味を持ったのはP183 Ⅵ座礁した船『わたしを離さないで』より、柴田元幸氏との対談で彼は『たとえばジョージ・オーウェルの『1984年』が、未来や執筆した時代へのコメントになったのと同様の理解をされたくないために、「もうひとつの現実」、「もし・・・・・だったら」という仮想の現実空間を、現代に生み出した』と語っています。未来派SF的に解読されることを回避し、これを「我々が住む人間の状況の、一種のメタファー」にするために、イシグロ氏は敢えてリアルタイムの年代を設定したのだと語ります。
 
さらに、P259 「おわり」では、イシグロ氏の従兄にあたる主治医のエピソードが説明されます。彼の作品に医者という存在が頻繁に描かれるのは、もしかするとこの個人的な背景と関係があるのではないか――そんな想像をかき立てられます。イシグロ氏の発言や創作意図を深く掘り下げたい方にとって、この一冊は非常に有益であり、強くおすすめしたい研究書です。

紹介者
しまふくろう
書名 カズオ・イシグロ:境界のない世界
著者名
平井 杏子
分野
作家の個人伝記
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所在
3F和書
請求番号
930.278/I