メインコンテンツに移動
おすすめ本

図書館員のおすすめ本

疒(やまいだれ)の歌

紹介文

 2013年の春、私は西村賢太の短編『春は青いバスに乗って』※1を読み、「私(わたくし)小説」※2の世界に没頭しました。今回紹介する作品は、北町貫多の十代の終わりを描いた物語です。主人公の貫多は、他人に理解されない葛藤のなか心機一転を図ろうとします。彼は怒りの中であっても「損得」を天秤に掛け、常に冷静さだけは失わず、生きる上で最適な方法を選択します。周りの人からどう思われようが、一切群れず、周りの視線にも動じず、一匹狼として駆け抜けた生き様に私はある意味「共感」を覚えました。
 北海道新聞の記事で、作家・桐野夏生さんは「共感」についてこう語っています。
 「人が小説を読むのは、誰もが根源的に死に対する恐怖や生きる苦悩を抱えているから(省略)」※3あの頃の私は、彼の小説から少なからず「生きる力」を与えられていたように感じます。図書館には「生きる力」を秘めた作品が眠っています。この先、「生きる糧」となるような作品に巡り会えると良いですね。

※1 『春は青いバスに乗って』は、「二度はゆけぬ町の地図」(角川書店)に収録された短編。バイト先で上司に暴力を振るい留置場での生活 を描いた作品。【本館所蔵913.6/N】
※2 「私(わたくし)小説」については、北海道新聞朝刊全道(ほん)8ページ、2023年2月26日(日)

<書評>蝙蝠か燕か(西村賢太著)評:横尾和博(文芸評論家)より引用。『「私小説」とは自分の身の回りに起こった出来事を素材として、生の苦しみを描く文学である。』
※3 北海道新聞朝刊全道(特集)16ページ、2022年7月24日「桐野夏生さんに聞く [自粛と忖度 萎縮する言論]」より引用。

紹介者
しまふくろう
書名 疒(やまいだれ)の歌
著者名
西村 賢太
分野
近代小説.物語
蔵書検索 検索
所在
3F和書
請求番号
913.6/N