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空飛ぶ馬

紹介文

 主人公の「私」は、文学部国文科に所属する女子大学生。古本屋めぐりと落語を聞くのが大好きという今どき珍しい趣味の持ち主。ひょんなことから大学の企画である卒業生との対談を依頼されますが、紹介された卒業生が追っかけ中の落語家・春桜亭円紫。  本書のジャンルは一応、推理小説ということになるのでしょうが、クリスティやクイーンのように人殺しが起きるわけではありません。「私」が不思議に思う日常のちょっとした「事件」を、現場に居合わせてもいない落語家の円紫師匠が小さな事実に基づく合理的な推理によって鮮やかに紐解いていきます。そして、そこに潜む人間の悪意、嫉妬、愛や友情、優しさ、善意を浮き彫りにしていきます。  ミステリとしての醍醐味も充分ですが、「私」が悩みながら成長していく過程が描かれているという意味で、むしろ教養小説(ビルドゥングスロマン)としての側面に魅力を感じます。円紫師匠は謎解きの探偵役であると同時に、人生の先導役でもあります。将来に漠たる不安を抱く19歳の「私」に寄り添いながら、暖かな眼差しを注ぎ、見守ります。  本書は「円紫さんと私」シリーズの第1作目です。円紫師匠との出会いの他に、親友の正ちゃんと江美ちゃんが初登場します。キャラクタ豊かな仲良し3人組の掛け合いが絶妙なのも本書の魅力の1つです。つづく同シリーズの「夜の蝉」「秋の花」「六の宮の姫君」もあわせて読んでみてはいかがでしょうか。

紹介者
中嶋輝明 先生
所属学部
文学部
書名 空飛ぶ馬
著者名
北村薫
分野
小説
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所在
3F和書
請求番号
913.6/K