メインコンテンツに移動
おすすめ本

HONTANのおすすめ本

香りが呼び起こす、記憶と向き合う物語

紹介文

 こんにちは。このページを開いてくださり、どうもありがとうございます。今回は、千早茜さんの『透明な夜の香り』をご紹介します。
 皆さんは、香りを嗅いだ瞬間、忘れていた記憶がよみがえったという経験はありますか。
 本書には「香りは脳の海馬に直接届いて永遠に記憶される」(p.55)という言葉があります。香りは目に見えないものですが、過去の記憶や感情と深く結びついています。香りは喜びの記憶を呼び起こす一方で、忘れたかった記憶や心の奥にしまっていた感情までも呼び起こすことがあるのかもしれません。
 主人公・一香は、とある出来事をきっかけに、森の奥深くにある洋館で香水作りを営む、人並外れた嗅覚を持つ調香師・朔のもとでアルバイトを始めることになりました。客の依頼をもとに朔が作り出す香りは、単なる「良い香り」ではありません。それは、依頼人が心の奥にしまい込んでいた記憶とそれにまつわる感情に向き合うきっかけとなる香りでした。洋館を訪れる客たちは、それぞれ誰にも言えない悩みや過去を抱えています。そして、一香自身もまた、朔の作り出す香りを通して、閉ざしていた記憶とそれにまつわる葛藤に向き合うことになります。
 香りによって過去の記憶がよみがえる場面には、胸が締め付けられるような苦しさがあります。しかし、読み進める中で、自分が何に苦しんでいたのかを理解し、その過去を受け止めることは、少しずつ前へ進むための大切な一歩なのだと感じました。
 また、この作品の魅力は物語だけでなく、繊細で美しい情景描写にもあります。朔が香りで世界を捉える一方で、一香は色彩で世界を感じ取ります。二人の異なる感覚を通した描写によって、物語の中の香りや色彩が鮮やかに浮かび上がり、ページをめくる度に物語の世界を想像したくなります。
 過去の記憶や心の奥にしまい込んでいる想いと、静かに向き合いたい時にそっと寄り添ってくれる一冊です。
 ぜひお手に取ってみてください。

紹介者
枝豆
書名
透明な夜の香り
著者名
千早 茜
分野
近代小説
蔵書検索 検索
所在
3F和書
請求番号
913.6/C