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狙われたキツネ
紹介文
ルーマニアのチャウシェスク独裁政権下での市民の生活を描いた作品。重たいテーマでありながら、小気味よく展開するエピソードは滑稽で、文体は軽く、どんどん読み進められる作品です。 「この国には視神経がはりめぐらされている」(p35)とあるのは、街中に貼られた独裁者のポスターのことだけを言っているのではありません。市民は、秘密警察や特権階級の目を常に気にしながら生活しています。著者は、風刺を込めた視線でその様子を語っていきます。 教師をしているアディーナは、飢えて病んだ目をした子どもたちを教えています。友人のクララは、階級社会の工場で理不尽な犯罪行為をたくさん目にし、耳にします。ほかにも、アディーナの恋人で軍隊へ行ってしまったイリエ、医者のパウル、クララに言い寄るパヴェルなど様々な登場人物について、現在と過去の記憶が混在するかたちで語られていきます。 この物語には、繰り返し使われるキーワードがいくつも出てきます。まず、チャウシェスクを表す「カールした前髪」。独裁者の名前を軽々しく口に出せないための隠語です。次に、「ドナウ川」。ブルガリアとの国境となっているドナウ川ですが、行きたくても行けない夢の場所として「ドナウの南」という表現が使われています。タイトルにも絡んでくる「キツネの敷物」。後半、このアディーナのキツネの敷物が、恐怖の象徴となっていきます。 ノーベル文学賞受賞作品、旬なうちにぜひご一読ください。
紹介者 |
職員B子
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書名 | 狙われたキツネ |
著者名 | |
分野 |
ドイツ文学
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蔵書検索 | |
所在 |
3F和書
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請求番号 |
943/M
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