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アジアンタムブルー

紹介文

 昨年映画化された作品です。主人公の33歳の男性は、「吉祥寺東急百貨店の屋上」で無為な時間を過ごしています。恋人を失った傷を癒す気力もなく、ひたすら哀しみと回想に浸っているのです。そこへ一人の女性が現れて、物語が展開していきます。この主人公は、自分で自分の性格を「軟弱で方向音痴」と言っている通り、情けなく、かっこいいところがありません。しかしだからこそ嫌味なく、共感して読むことができます。哀しみと愛しさが染み渡ったような静かな物語です。乾燥に弱い「アジアンタム」という小さな葉のシダ植物も、主人公の気持ちを映すものとして効果的に登場します。  著者の大崎善生は、札幌出身です。この作品でも、主人公が札幌で過ごした中学・高校時代を回想するシーンがあり、地元の人間ならではの楽しみ方ができます。例えば、「『狸小路の千秋庵にとてもおいしいソフトクリームがあるんだけど、これから一緒に食べに行かない?』(p80)」と高校時代の先輩に誘われるシーンがあります。その後2人は市電に乗って、すすきのまで行きます。また、「屋上からは豊平川の大らかな流れが一望でき、晴れた日には遠くに恵庭岳が見渡せた。(p83)」という描写も出てきます。  恋人を失った絶望に浸りながら、恋人を忘れるのではなく恋人になおも支えられて再生していこうとする、優しい物語です。  この春は、アジアンタムを育ててみたくなるかもしれません?!

紹介者
職員B子
書名 アジアンタムブルー
著者名
大崎善生
分野
日本文学
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所在
3F一般図書
請求番号
913.6/O