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空高く

紹介文

 仕事をリタイアした還暦間近の主人公が、趣味の自家用飛行機を乗り回して地上の煩わしさを忘れるという、なんだかお洒落すぎるあらすじの本です。ところが、なかなか飛行機に乗らない。結局ほぼ地上で煩わしさの渦中にいるというオチの人間味溢れるお話でした。  家族の物語です。主人公は、親から引継いだ会社をさらに息子に譲り、悠悠自適に暮らしています。妻は早くに亡くしており、現在は恋人がいます。娘も息子も独立し、年老いた父親のお見舞いに行くのは少し憂鬱ですが、飛行機に乗ればそんなことも忘れられます。主人公はあまり欲のない人で、悪く言えば事なかれ主義です。今まで色々なことに正面から取り組まず、そつなくこなしてはきましたが、そのつけがついに回ってきます。父親の調子も悪くなってきます。恋人は離れていきます。息子も娘も問題を抱えていることが判明します。そして、妻の死についてきちんと向き合ってこなかった家族の溝が明らかになっていきます。たたみかけるように現れる煩わしい問題。追い詰められていく主人公は、漸く物事に正面から向き合います。  この主人公の父親らしくないところ、逃げ腰でわがままなところが、人間らしくて良いです。娘のことを自分とは相容れないと思っていることや、息子と大事な仕事の話ですら面と向かって話し合えないこと、それぞれコンプレックスを抱えながらも気づかぬふりで通していることなどが、感傷抜きでリアルに描かれています。  著者はコリアン・アメリカンです。この作品の主人公は白人男性なので、移民色はほとんどありませんが、混血の人物が多く登場します。ニューヨーカー誌で「21世紀の20人の作家」に選ばれています。

紹介者
職員B子
書名 空高く
著者名
チェンネ・リー
分野
英米文学
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所在
3F和書
請求番号
933.7/L